従来の事例検討会は、架空の事例に対して、どのようなサービスが受けられるかをグループで話し合ったり、発表したりするものでした。記述のないことに対して、想像で広げていくことには能力が必要なので、研修としては一定の効果があると考えます。しかし、「日々の業務が忙しいのに資料をまとめても、ダメ出しが多くて解決策についての発言がなくて割に合わない」「毎回出てくる答えが変わらず、実践につながらない」「責められるようで事例の提供はできればしたくない」といった声が多かったように感じていました。とくに同じ職種だけ、限られた職種だけで行うと、その傾向が強くなるようです。
そんな中、「実際に今困っている対象者の状況をどう解決するか、実践的なプランが見える検討会があったらいいのに」という声がたくさん上がってきました。
気づいていない課題がもっとあるのではないか。その方の人生や大切にしていることを尊重できる検討会ができるのではないか。職種ごとに専門性を高めることに加えて、全体をとらえて包括的に課題解決にあたることが必要なのではないか。検討会を通して、実際に今日からその結果をもって対象者の支援にあたれる実践的・現実的な検討会はないか。
そのためには、「多職種」での連携が重要と考えました。高齢化が進み、人とのつながりが希薄になっていく時代において、支援における課題はひとつではなく、様々な分野の問題が絡み合っています。
「見え検」では、「多職種」で検討し、実際に一緒に対象の方に取り組んだり、一緒に関わったりし、解決するための多職種の仲間をつくっていきます。
このように、多くの問題を抱える対象者の場合は、医療・介護・福祉だけではなく、地域の方々や法律の専門家など、さまざまな支援者たちが関わる必要があります。
しかし、単職種だけでは気づく視点に限りがあり、複雑に絡まる問題同士のつながりが見えにくくなります。そこで、「多職種」による検討会を行うことで、異なる専門性・異なる視点から、課題を包括的にとらえることができるようになると考えました。
また自分の職種に何が求められているのか、他の職種がどのような視点で関わっているかを知る機会にもなり、役割の差異や関係が認識できることで、さらに自分の職種の専門性を高めることにもつながります。そして、他の職種・関わる人たちのことを互いに尊重(respect)できるのです。
このような多職種での検討会を進める手法として、英国のトニー・ブザン氏が考案した「マインドマップ」をもとに、八森が開発したのが「見え検マップ」です。「マインドマップ」とは、中央に置いたイメージからカラフルな枝を放射状に広げていく思考ツールで、階層構造や関係性を一目で把握できるため、考えを整理したり、チームで共同作業を行ったりするのに適したツールとして、様々な場面で活用されています。
「見え検マップ」では、テンプレートに沿ってマップを展開していきます。多職種の参加者たちが、自分の得意分野をベースに全体像を把握することができ、お互いに意見や質問を交わしあうことでさらにマップが充実していきます。
また、架空の事例・過去に関わった事例ではなく「今動いている」事例を解決するために出された発言には、日頃の関わり方の姿勢や思いが他の参加者に伝わっていき、発言者を尊重することにつながっていきます。
また参加者全員の視線は「見え検マップ」に集中しており、それが参加者同士をつなぐ役割も担っています。自然と前向きな発言が集まり、つい質問したくなる・発言したくなる場です。不思議なことに、参加者も事例の状況の中に入り込んでいく感覚になります。
最後に、実際に誰がどう動くかアクションプランを決定します。
地域に参加者同士のネットワークが生まれ、地域連携が発展していきます。
この検討会の手法が全国に広がり、各地で「見える事例検討会」が開催されています。開発者である八森・大友の両名も、ご要望があれば全国各地へ赴き、「見え検」を開催しています。
また、自分で検討会をやってみたい! という方には、検討会の進行の手法を2日間かけてじっくり学べる「ファシリテーター養成講座」を行っています。参加者を巻き込み、課題解決に導くポイントがわかります。そして、2日間の講座を終えると、あなたも「見え検」のファシリテーターとして、自分の職場や地域で「見え検」を開催できるようになります。